スライは『サンキュー』といいながら 匍匐前進していた

スライ&ザ・ファミリーストーンの「暴動」に収録の
「サンキュー・フォー・トーキン・トゥ・ミー・アフリカ」は
すごく好きです。
このアルバムが発売される前に出た「サンキュー」と
同曲なのですが、別テイク。
いや、別の曲と言っていいくらい演奏から受ける感じは違いますね。


シングル盤の方のテイクにずっと馴染んでいました。
こっちはいわゆるファンキー。
ストレートにカッコイイ。
ラリー・グラハムの元祖・チョッパーベース大炸裂の
ハードなダンスナンバーです。
いや歌詞はもの凄くシリアスだから気軽に踊る曲では
ないのでしょうが、このグルーヴ感、もう踊るしかないでしょ、
という演奏です。


それに比べると、アルバムの方はえらくだるい。
ファンキーのかけらもないように最初は聴こえます。
なんでこんなバージョン入れたんだ?シングルの方が全然いいのに。多分、大多数の人がそう思うのではないのでしょうか。
聴き比べをしたら。


この大地を匍匐前進していくような、ゆったり、
というよりはもったりとした感じ。
しかも妙にボトムの音の弱いミックス。
はっきりと変です。


でも、スライ・ストーンは当然、承知の上でこのバージョンを
アルバムに入れたのでしょう。
このアルバムを聴き始めて10年くらい経って
やっと、わかりました。(もちろんぼく流にですが)

彼は違和感を体現したかったのだと思います。
だから、素直に踊れてしまう、そしてカッコイイアレンジを
敢えて捨てたのです。
かっこよさに痺れさせてはイケナイ、
と思ったに違いないはず。
より「個」を感じさせる音なのです。
一人の男の視点がはっきりと見えるのです。

この超だるいバージョンの「サンキュー」
10年かかって分かった味わい。
僕にとってはこの音をリアルに感じるまで、10年かかりました。
面白いですね、音楽って。


http://www.sagaminokaze.com/main.htm