ビートルズのレコーディング魂

ジェフ・エメリックというレコーディングエンジニアの書いた
『ザ・ビートルズサウンド 最後の真実』という本を読みました。

ジェフ・エメリックという人は、全盛期のビートルズ
エンジニアをしていた人です。
もちろん、ビートルズ後も現役の第一線でずっとやってきた人で、
エルビスコステロなどとも一緒に仕事をしている人です。

この本は、タイトルの示すとおり内容の8割はビートルズ
レコーディングのことについて、書かれています。
技術的な細かいことを書くのではなく、僕らにもわかるように平易に、
面白く書かれた本です。

僕は色々な種々雑多な音楽が好きですが、
ビートルズ」「ビーチ・ボーイズ」「キンクス」「マイルズ・デイヴィス」
という4組の音楽家には、ただ単に「好き」以上の敬意や影響や、
その他もろもろ、色々なものを頂いています。

僕が最初に買ったロックのシングル盤は14歳の時に買った
ビートルズの「イエロー・サブマリン/エリナーリグビー」の
シングル盤でした。
もう夢中になって聞きました。
曲や演奏もものすごくいい。
でも、曲に挿入された効果音やダブルトラックなどの
レコーディング特殊効果に早くから心を奪われていました。
なんで同じ人の声が右と左別々なパートを歌っているんだろう。
何でこんなことが出来るんだろう。
考えてみたら、ロックというものに最初に触れたときから、
レコーディング自体のマジックに心を惹かれていたのです。
イエローサブマリンの海の中のぶくぶく、とか曲も好きだけれど
その効果音を聴きたいがために毎日のように、
そのシングルを聞いていました。
中学生は金なんぞないですから、シングル盤一枚といえども宝です。

そして、そんななぞが自分もレコーディングというものに、
手を染めるようになってから、少しずつわかっていきます。
「あーポールは、こういう風に音を作っていったんだ。」
「リヴォルバー」のあれはこのエフェクターをこうすると出来るんだぁ。
なんてことが。
また、ビートルズファンなら必携のもう一つの大著、
ビートルズ・レコーディングセッション」という
レコーディング日誌のような詳細なデータ本にも
その辺は詳しく書かれていたので、奇術の種明かしを見るような気分で、
彼らの音がどういう風に作られたのか、興味深く知りました。

この、ジェフ氏の本には、技術的なこともさることながら、
レコーディング時のメンバーの様子や人間関係なども
ことこまかに書かれていて、当たり前といえば当たり前なのですが、
レコーディングする時の環境や人間関係、気遣いって
大事なんだよなぁ、ということをリアルにわからせてくれます。
もっとも、それが音楽的成果と直に結びつかないのが
面白いところでもありますが。

ホワイトアルバム」を録っているときはメンバー間の対立が絶えず、
この本の著者・ジェフ氏もうんざりしてレコーディングエンジニアを
降りてしまいます。
しかしアルバム自体は傑作。
僕の個人的ビートルズナンバーワンアルバムは
ホワイトアルバム」です。
しかし、これを録っている時にここまでビートルズの中が
険悪だとも思いませんでしたが。
よくない、というのはわかっていつつも。そんなところも面白い。

彼が書いていることで一番心に残ったのは
まずは曲がいいことが一番大事。
後からどんなにいじったって、よくない曲をそれ以上のものにすることは出来ない。
彼はビートルズと一緒に作り上げてきた人ですから、
ビートルズの曲に対する評価も、結構しっかりしています。
彼にとってよくない曲に対してははっきりと「よくない」と書いています。
そういうところもいいな、と思います。
僕の好きな曲が「よくない」と書いてあると「なんで?」と思いますが。

そして、「録り音」命!なところ。
これもよくわかります。
もちろん彼も色々なレコーディングテクニックやギミックを使っています。
というか、今に至るレコーディングのギミック、トリックの多くを
彼が作り出したといっても過言ではないのです。
でも、そんな彼が言う言葉だからこそ、重みがあります。
音を出して、それを録音した瞬間の音の勢い、新鮮さ、面白さ、
それに勝るものはない。
もちろん後から色々加工するのだけれど、
最初のそれを越えることはない。
後から何とかしてよくしようという考えは基本的に間違いだ、
と言っていること。
最近、コンピュータを使ったレコーディングに根本的な疑問を
抱いている僕には、大いにうなずけることばかりです。
今、コンピュータを使ったレコーディングでは、
ほぼ無限にトラックを使えますが、ビートルズは、ジェフ・エメリックは
たったの4つしかトラックを使えないレコーダーで
「リヴォルバー」を「サージャント・ペッパー」を、録音したのです。
そのアレンジ力、演奏力、ここ一発にかける、集中力をこそ、
僕らは見習わなければいけないと思います。
無限に使えるトラックは、結論を先延ばしするだけです。
修正されまくった演奏は、ライブでの演奏力を低下させるだけです。

この本を読むとビートルズと一丸になった、周りのスタッフ達も
常に最高のものを、過去のものを突き破ろうという気概に
満ちていたことがわかります。
久々に「リヴォルバー」をかけながらこれを書きました。
最高っす、本もアルバムも。

レコーディング魂を、作曲家魂をいたく刺激されました。
僕も僕なりの作品で答えを出しますよ!
いえ〜。