マイルズの自伝でハイになる

マイルズ・デイヴィス自伝」
この数年間で、何度読み返したか分からない。
もの凄く刺激を受ける本。
音楽好きな人はもちろん、音楽をやる人は必読、だと思う。

新旧問わず、好きなミュージシャンは沢山いるのだが、僕の中ではジョージ・ハリスンキンクスブライアン・ウィルスンマイルズ・デイヴィスの4人は別格である。
そしてやっている音楽の多様さ、その音楽の進化の具合、活動の仕方などで見ていると、その中で更に別格かつ孤高の存在なのがマイルズだ。

正に音楽に一生を捧げた、という意味ではマイルズはいちばん献身的だ。
もちろん活動が低迷したり休んでいた時期もあるのだが、(人間なら当たり前だ)それを差し引いたって十二分にお釣りが来るくらい、常に自分の音楽を前へ前へ進めていった人である。

人としては相当きつい人だったらしく、また、女にはだらしなく、ヤク中で苦しんだ時期もあり、相当波乱の人生である。
自伝ではそのダメだった時期、しょうももない自分のことも包み隠さず語っている。

だが、それ以上に深く心を打つのは自分の音楽を進化させるエネルギーと情熱だ。
一歩でも音楽で遠くに行こう、という意志を持って「音楽していた」のがひしひしと伝わってくる。
そこにうたれる。

マイルズの音楽を聴いて、単純に愛とか優しさを感じる演奏というのは、あまりない。
いや、もちろんそういう曲もあるのだが、マイルズの場合、もっと深いのだ。
一色ではない。一色に見えるモザイクのような細心さと、でもいざとなれば、ずばっと一刀両断する鋭い激しさと、常に表裏一体でなおかつ、色々と複雑な要素を含んでいるのだ。

悪魔に魂を売ってしまったんだか、それとも音楽神にひれ伏していたんだか、それはわからない。
でも彼の人生と音楽の軌跡を本の中でたどると、殉教的な敬虔さを感じる。

彼が亡くなったのは65才だから、けして長生き、な方ではないけれど、多くの天才型にありがちな、自己破滅的な短い人生、でもない。(ヤバイ時期は何回もあったようだけど)
亡くなる直前にレコーディングしていた遺作は、僕は聴いていないのだけれど、ラッパーと競演した作品だ。
時代に媚びず、でもしっかりと取り入れ、あくまでマイルズにしかできない音楽をつむぎ続ける。
その45年に及ぶ音楽活動の中で、音楽の流れを変えてしまうようなことを何回か成し遂げている。

音楽を志すもの、こうありたいではないですか。
自分とマイルズを比べるなんておこがましいことこの上ないのは百も承知。
でも、こうありたいと思います。

この自伝を読み返すたびに、「あー、まだまだ全然遠いなぁ」とあまりの山の大きさにめまいがすると同時に、まだまだ、とにかく一歩でも遠くに行くぞ、と思うのです。