マイルズにもギルにも見捨てられてしまった「芳醇の音」

マイルズ・デイヴィスギル・エヴァンスのコラボレーションは、アルバムとして残っているものとしては、全部で4作である。
初期の「クールの誕生」をいれても(といっても二人以外にもアレンジなどにはジョン・ルイスジェリー・マリガンもかかわっているようだから、やはり、テイストはだいぶ違う)全5作。

その中で、多分一番評価されていない、知名度も低いものをお薦め。
クワイエット・ナイト」です。
1964年にリリース。
製作途中でマイルズも、ギルも煮詰まって、途中でお蔵にしてしまったのを、本人たちに無断で、しかも別のセッションの曲も勝手に加えて出してしまったという代物なので、本人たちは、怒っている。マイルズなどは「オレの作品じゃない」位のことまで言っている。

でも、いいんです、これが。
一応、当時流行っていた、ボサノヴァ&ジャズなかんじでやろうとしたのだろうけれど、そういう色はさほど濃くない。
マーティン・デニーなどにも通じるような妙な熱帯感、ねっとり感。涼しい感じではないのだ。といっても暑苦しくもない。
う〜ん、微妙だな、この空気感は。
オーケストラ全体のうねり方が、絶妙で、濃厚で、エロだ。

確かに途中で放り出してしまったものだけに、「スケッチ・オブ・スペイン」のような有無を言わさぬ感動とは別物だ。
もうちょっとゆるい。
多分そのゆるさが、、そして二人の持ち味とはちと離れた濃さが、マイルズもギルも気に食わなかったのではないか。
でも40年の時を経て聞くと、このちょっとゆるくも暑い感じがよい。
音による陶酔感、もっと言ってしまえばドラッグなかんじ、かなり漂っています。
音による架空の楽園。
どこにもないのだけれど、、つい手が届きそうな錯覚を与えてくれる。

今でこそその濃厚な味わいがおいしいアルバム。
とろけそうです。
芳醇とはこれだ。