ポール・マッカートニーの至福の音楽

ポール・マッカートニーがやってくれたぁ!
いや、悪いことじゃないっす。
昨年の秋に出た「カオス&クリエーション・イン・ザ・バックヤード」を聴いたのだ。
よい。
よいです。
いいぞおおおおおお。

もう、60歳を過ぎた人である。
そういう人に過度な期待をしていたわけではない。
いくら元ビートルズといったって、彼に時代の最先端を求めるのは無理だ。と思う。
また、音楽の世界もいつまでもポール頼み、というほど人材不足でもないと思う。
若くて新しいよいものを創造している人は、たくさんいるだろう。

ポールがここで紡いでいる音楽は、新しくもなく古くさくもなく、いつ聴いてもエバーグリーンな、けして色褪せることのないであろう音楽だ。

最初聴いた時は、ちょっと地味かな、と思った。
やや、キャッチーさに欠けるのでは、と思ったのだ。
でもこれは京風薄味、でもスルメ、という噛めば噛むほど味が出てくるアルバムなのだ。
力は入っていない。
いい感じに脱力。
でも枯れていない。瑞々しいのだ。
2002年にポールのライブを観たときも思ったけれど、ポールのよい音楽にはいつも瑞々しさが溢れている。

今回のアルバムはほぼ一人で楽器、ヴォーカルをやっている。そのせいもあるのかもしれないけれど、もの凄くパーソナルな香りがする。数少ない他人の手を借りているパートは、ストリングスくらいかな。これがジョージ・マーティンビートルズ風ではなく、トニー・ビスコンティ/T・REX風なのがちょっと笑えるが。
ま、そんなことはさておき。なんか、ポールが僕だけのために歌ってくれているような、個人的に送ってくれた音源を聴いているような、そんな気分にさせてくれる。
遠縁の、昔、遊び人だった粋な伯父さんと話しているような感じ。

そして。そんな肩の力が抜けたアルバムなのに、もの凄くソウルも感じる。いわゆるソウルミュージック風の曲が入っている、という意味ではない。
言葉本来の「歌の魂」みたいなものを感じるのだ。
60歳を過ぎてまで、歌を、アルバムを「作らざるを得ない」人なのだ。
表現しつつづけなければ、溢れてしまうような、歌の泉がポールの中には未だ、こんこんと湧き出ているのだ。
そしてそれは、今だってきらきら輝いているのだ。

音楽を続けていく上での、至福の形なのではないだろうか。
「素敵な音楽」なんて書くと、かなり恥ずかしいけれど、これは正にそういう名がふさわしい音楽です。
よかったぁ。