ビル・エバンスとジム・ホールのつかず離れずな距離感

僕はそもそも、5〜6年前までは「ジャズなんかよお」という人であった。当然「興味もないし、わからない」の方である。
「あんなのアドリブの垂れ流しじゃん、全部同じに聞こえるし」
ジャズに対する愛情などある訳なかったので、もう、言いたい放題である。

それがころりと変わった。
きっかけはマイルズ・デイヴィスの「スケッチオブ・スペイン」
まあ、あのアルバムはギル・エヴァンスのオーケストラ付きだったので、アドリブ度数は低く、アレンジ度数は高かったから、僕のようなリスナーにも聞きやすかったのは確かかもしれない。

そこからマイルズにのめり込み、派生して色々な人を聞いた。

そして今日の話題の人。
ギル、ではなく、ビル・エヴァンスです。ピアニストの。

この人も亡くなってから随分たつが、未だに人気も高く支持者も多い。

だが、僕にはこの人の良さ、とか凄さが皆目分からないのだ。
早い話いいと思えない。
一応、名盤といわれている「ワルツ・フォー・デビー」など、主にスコッツ・ラファロ在籍時のものを数枚持っているけれど、どれも「悪いとも思わないけれどピンとも来ない」感じなのだ。
正に数年前におけるジャズ全体に対する態度を、ビル・エヴァンスに対してとっている。

ま、しょうがないよね。
分からないものは分からない。
永く聞いているうちに、ある日ふと分かることもあるし。
スライ&ザ・ファミリーストーンとかサンタナとかは、そういう存在だったしな。

でも、僕が持っているビル・エヴァンスのアルバムで、一枚だけこれは、と思っているものがある。
ギタリストのジム・ホールと競演した「アンダー・カレント」だ。
ジャケットの美しさで(僕は基本的に叙情的なジャケットにはそんなに惹かれないのだが、これは見てすぐにジャケ買いだった)思わず買ってしまったアルバムだ。
そしてジャケットのイメージを裏切らない内容。というか逆だな。あの音の像をここまで見事に視覚化したジャケットはない、ということなのだろうな。

珠玉、という言葉はこういうアルバムのためにあるのではないだろうか。

ひょっとすると、このアルバムに魅力を感じているのはジム・ホールの部分かもしれないから何とも言えないが、でも、このビル・エヴァンスにはとても共感できる。
それぞれの出す音が見事なのはもちろんなのだが、このアルバムにおいては二人の音が「からみあう」とか「溶け合う」ではなく、なんというか、二人の距離感が心地いいのだ。
正に絶妙。つかず離れず、ベタベタせず。
潔い、という言葉もなぜか浮かんでしまう。

今晩もまた、聴いてみようかな。