ハンク・ モブレーはヘタウマか?

ハンク・モブレーの1960年のアルバム「ソウル・ステーション」をお薦めです。

ハンク・モブレーは実際にプレイを聴く前に、文字からの情報が先行していた。
マイルズ・デイヴィスの自伝で「ハンク・モブレーとプレイしたときはイマイチだった。」という文章に接したのが最初だ。その後も音よりも前に、「下手だが、味がある」だの「B級テナーサックスのチャンピオン」だのロクでもない評ばかり目にしていた。

最初に音で聴いたのは、やはりマイルズのアルバム「ライブ・アット・ブラックホーク」である。ついで、「サムデイ・マイプリンス・ウィル・カム」。
どちらもアルバムもハンク・モブレーのプレイは格別印象に残らなかった。僕的にはマイルズと一緒にプレイして一番印象に残っているサイドメンはキャノンボール・アダレイなので、ちょっと、格が違うかな、という気もした。

ここまでは全然、僕の気持ちに引っかからないプレイヤーだったのだ。ハンクは。
しかも、情けないことに、いろいろなところから植え付けられた先入観に支配されていて、自分の感性の判断ができていなかったのだ。

そんなハンク・モブレーのアルバムをなぜ買ったのかというと、単なる衝動買いだ。ジャケットのイメージがよくて、値段もセールの棚に入っていて2割引だったからだ。

「ソウルステーション」を聴いてみた。
いいじゃん。
すごくいいじゃん。
まろやかさと、ブルース感覚の程良いブレンド

マイルズとの共演でよくなかったのは、「マイルズ・デイヴィス」という器との相性の問題だったのだ。
というか帝王マイルズが、求めていたものと、ハンクの持ち味があまりにも食い違っていたのだろう。
これはしょうがない。
元々が無い物ねだりだし、明らかに違う土俵で勝負したハンクに魅力がないのももっともな気がする。

また、ハンク・モブレーB級テナー説(結構あちこちで見かける)というのも、よく分からない。
確かに早弾き(サックスは早吹きというのかな?)のようなことはしない。それに結構タメが多い人だから、それがモタリ気味に聞こえるのかもしれない。(マイルズはもたるのは嫌いだと、先の自伝に書いていた)
だが、あのブルース・フィーリングといい、まろやかな音色といいどこが下手なのだろうか?
もたったように聞こえるのも、あれは断言してもいいけれど、分かった上でぎりぎりまでタメているのである。それをコントロールしてできるというのはタイム感、リズム感に優れている証拠なのではないだろうか?
そしておそらく、ハンクが好きな人というのは、あの独特なタイム感も含めて好きなはずである。

豊かでハッピーな音楽だ。
しかも大人だ。
酸いも甘いもかみわけた、というのはこういう音楽だと思うよ。
よかった、ちゃんと自分の耳で判断できて。