ジョニ・ミッチェルのご尊顔

ジョニ・ミッチェルは、今さら僕が言うまでもなく素晴らしい音楽家だ。大ファン、というほどではないが、何枚かアルバムも持っている。
だが、僕はこの人の顔が好きになれなかったのだ。女性ミュージシャンが、美人である必要は全然ないのだけれど、でも、嫌いなタイプの顔、というのは間違いなく存在する。
ジョニさん、ごめんなさい。でも、僕には苦手なタイプのお顔なのだ。

歌はすごくいい。だから僕はジャケットはなるべく見ないようにしている。

でも、この前買った「逃避行」はジャケットも含め素晴らしい。「顔が気に食わぬ」などと申して、誠に失礼いたしました。特に氷原の上を鳥のようにヴェールを広げて、スケートで滑っていく写真などは、それだけで、想像が無限にふくらむようだ。

1976年の作品。ちょうど、フュージョン、などという音楽が出始めた頃かと思う。ラリー・カールトンなど、「それ系」の人もバックアップしている。
ベースにジャコ・パストリアスが入っているのだが、そして僕はこの人も音が多すぎて、しかもなんか気取っているくさくて好きではなかったのだが、このアルバムでは大変良い。ジョニの歌とある時は絡み合い、ある時は裏の部屋に潜み聞き耳をたて...音数は相変わらず多いのだが。

この人は、どの作品も「サウンド」の質感が独特だ。音色の選び方も、ニクイ、と思わせる。多分音楽をやる人ほど、うならせられる音色なのではないだろうか?
別に綺麗な音色を完全主義的に並べているわけではない。
むしろ、粗が目立つような音をうまく配置しているのだ。
この人の場合、曲が良くて声もいいから、それだけで充分なのかもしれないけれど。

歌詞はまだよく見ていないけれど、全体のイメージはぴりっと辛口の短編小説集を読んでいるような感じだ。
夏なのになんだけれど、誰も尋ねてくるあてのない真冬の夜に、ストーブの前で膝を抱えながら聴きたいアルバムです。